- Texstyle / Dyeing
- 2024年6月15日更新
Silkworm Excrement Dyeing Ⅱカイコ(家蚕:かさん)のフンで『蚕沙染め』
昨年、桐生の「千美工房」さんのもとカイコのフンでの染めを知り、その時一度だけ『家蚕(かさん)』のフンで染めてみたものの家に戻ってからは『登坂工房』さんでいただいた『天蚕(てんさん)』のフンでの染めを何度かトライしました。
天蚕のフンは茶系、ベージュに染まりました。そのレポート「天蚕(てんさん)のフンで『蚕沙染め』」を書いていて『カイコ(家蚕:かさん)のフン』は本当に緑系に染まるのか?と気になりだし、染めトライをすることにしました。そこで養蚕県であるこの街の近くで『家蚕(かさん)』のフンを入手できないかと探しましたが、すでに昨年の養蚕時期を逃していたこともあり時間が経ってしまいました。
春も近づき「市内の養蚕農家さんからおカイコのフンを入手できないか?」と身近で相談。そこで「富岡シルク推進機構を訪ねたら」とアドバイスをもらい、そのながれの中で、現在富岡製糸場内で市の仕事に携わっている同じ大学専攻卒の後輩にあたる方から紹介をいただくかたちで富岡シルク機構へご挨拶。「こちらは(...私のこと)『蚕糞(こくそ)※』が欲しそうです」と紹介されて話は進みました。そして、春蚕が始まり市内の養蚕農家さんから無事にフンを入手できる算段となりました。シルク機構の方から『おかいこ上げ・上簇(じょうぞく)前が一番大きくて取りやすいだろう』とご連絡いただき、数日前にやっと入手。さっそく染めてみます。
※蚕糞(こくそ)というのが周辺の養蚕農家さんではメジャーな呼び方ようですが、私はなんとなく呼びにくいのでこのサイトでは『蚕のフン』とさせてもらいます
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材料・薬品
- 蚕のフン:富岡シルク推進機構さんから(300g:かなり湿度あり)
- 重そう:5g
- 米酢:家にある物を使用
染材(精錬した絹糸)
- 緒糸(キビソ糸):10g×5本
道具
- ホーロー鍋・不織布ネット・加温設備・温度計
- 家蚕(以前、私が市民養蚕で飼ったカイコの画像):これの排泄物(糞)
- LLサイズのレジ袋にいっぱいの糞からクワの葉や枝そして実、カイコの脱皮などを廃棄して約半分に。水分をかなり含んでいるので広げて乾燥
染液の抽出①
【蚕のフン: 300g(半乾きのため)】で約2ℓの染液を作る。まずは媒染液違いの結果を知るためにトライ
- 【水: 2ℓ】に【重そう:5g】へ【蚕のフン: 300g】のゴミなどを取り除き、不織布に入れ70℃~80℃で30分煮る
- 排水ネットの袋を取り出し、不織布のキッチンペーパーで漉し抽出液とする
今回は草木灰の液を用意していなく【重そう:5g】を使ってのアルカリ抽出なので結果は不安なまま染液の抽出方法は簡単に、ここで一旦終了
- 染材をテープを色分けして各媒染剤で《先媒染》
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先媒染(みょうばん/スズ/チタン)※タマネギと同じ
- 【水:1000cc】を加熱
- 80℃程度になったら【各媒染剤:3cc、みようばん:3gは熱湯で溶かす】を入れ撹拌
- 染材(絹糸)を入れる
- 弱火でゆっくり温度を上げて30分ほど煮沸(沸騰させない)
- 火から降ろして冷却し絞る
- お湯でよく洗って脱水
まずは媒染剤による色の違いを確認するため《みようばん先媒染》《スズ先媒染》《チタン先媒染》《銅後媒染》《鉄後媒染》の5つの媒染剤のために染液は同浴で一緒に染めます。《後媒染》グループは30分ほどお湯に浸してから絞っておきます。
- 《先媒染》田中直染料店「草木染薬品」浸染用錫液、浸染用チタン液
- 《後媒染》誠和「草木染薬品」鉄媒染液、銅媒染液 ※すでに閉店されてます
- 媒染剤による色変化を見るために、テープを色分けして5本を一緒に染める。全体的にベージュや茶色で緑系っぽくない
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【抽出液:約1ℓ】を【水: 1ℓ】で薄めて、その後抽出液に【米酢】を入れて中和。
染材を入れて80~90℃で約30分浸染。
染液から取り出して水でよく洗って脱水。
蚕のフン抽出液①での染め作業はここで一旦終了。
《先媒染》グループはここで完了。
- 無媒染で染めた染材を各媒染剤で《後媒染》(参考:銅媒染)。無媒染での染まりは良くなかったが、緑系になってきて感激
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後媒染(銅/鉄)
- 【水:1000cc】を加熱
- 80℃程度になったら【各媒染剤:3cc】を入れ撹拌
- 無媒染で染めた染材(絹糸)を入れる
- 弱火でゆっくり温度を上げて30分ほど煮沸(沸騰させない)
- 火から降ろして冷却し絞る
- お湯でよく洗って脱水
《銅媒染》は今まで他の染料材で全く色に変化を期待できない媒染剤だったが『家蚕のフン』では期待していた緑系へいちばん変化が確認できた。天蚕糸のような色合い
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家蚕(かさん)のフンでの蚕沙染め①
富岡シルク推進機構さんからたくさんの家蚕のフンをいただいたので急いで試し染めをしました。かなり湿度をもった半乾き状態だったので重さと量は一致していません。また今回の抽出時に草木灰を用意できず、重そうでアルカリ化させてみたものの不足していました。また染液を薄めたのも失敗だったと思います
糸の写真左から- 《チタン先媒染》:明るめな黄土色
- 《スズ先媒染》:わずかに黄緑のベージュ
- 《ミヨウバン先媒染》:ほぼ《スズ先媒染》同じ色目
- 《鉄後媒染》:《スズ先媒染》や《ミヨウバン先媒染》に黒味を追加したベージュ
- 《銅後媒染》:みどり系のベージュ。裏葉柳という感じ
カイコのフンで蚕沙染め②
抽出1回目はまだフンが乾燥していなくてゴミ取りも不十分で半乾きだったので、もう一度お試し染めをやってみることにしました。乾燥も順調。抽出1回目は媒染比較のために市販媒染液で染めましたが、今回は緑系を出すことが目的なので最初に緑系に発色した《鉄後媒染》《銅後媒染》そして、《ミヨウバン媒染》も後工程で。自作の《鉄媒染剤》と《銅媒染剤3》を使いました。
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材料・薬品
- 蚕のフン:富岡シルク推進機構から(100g:乾燥済み)
- 草木灰汁:1ℓ(ph9)
- ソーダ灰:5g(市販品)
- 米酢:約40cc:家にある物を使用
- 1回目の抽出液:1ℓ
染材(精錬した絹糸)
- 緒糸(キビソ糸):10g×3本
- 《2回目の抽出》【カイコのフン: 100g】のゴミなどを取り除き、排水ネットに入れる
- 【草木灰汁:1ℓ】にフンを入れる。アルカリ性が低いので【ソーダ灰:5g】を追加(ph11)して30分。
- 抽出液が少ないので、抽出液①で残した1ℓも追加。【米酢:約40cc】で中和
- 排水ネットのフンを取り出したが漉さずに今までと同じ方法で30分間の浸染
2回目の抽出液をつくるのに、灰汁のph値があまり高くなかったので【ソーダ灰:5g】を追加。30分煮沸。抽出液が少ないので、抽出液①で残した1ℓも追加。濁ってとろみはあるものの浮遊物は少な目なので、排水ネットのフンを取り出すだけで漉さずに染色。
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家蚕(かさん)のフンでの蚕沙染め②
2回目は、1回目の結果が良かった《銅後媒染》《鉄後媒染》、そして《ミヨウバン後媒染》で媒染
- 《ミヨウバン後媒染》:①先媒染よりほんの少し黄緑系を含んだ色へ
- 《銅後媒染》:①市販媒染液とほぼ同じ
- 《鉄後媒染》:①市販媒染液よりほんの少し黄緑系で黒味が追加
カイコのフンで蚕沙染め③
①②染液で染めた絹糸(緒糸(キビソ糸))は「『精練不足』で染まりが悪かったのかも」と感じたので他のグループの緒糸(キビソ糸)を用意して10gずつにして染めてみます。媒染は市販品で各5cc。
- フンのゴミ取りと乾燥が完了。粒の大きさが揃った染料材に
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材料・薬品
- 蚕のフン:富岡シルク推進機構から(100g:乾燥済み)
- 草木灰汁:1ℓ(ph9)
- ソーダ灰:2g(市販品)
- 米酢:約20cc:家にある物を使用
染材(精錬した絹糸)
- 緒糸(キビソ糸):10g×3本
- 《3回目の抽出》【草木灰汁:1ℓ】に【カイコのフン: 100g】のゴミなどを取り除き、排水ネットに入れてから入れる。アルカリ性が低いので【ソーダ灰:2g】を追加(ph11くらい)して30分。
- 【米酢:約20cc】で中和。排水ネットのフンを取り出したが漉さずに今までと同じ方法で30分間の浸染
3回目の抽出液をつくるのに、2回目と同じ灰汁のph値があまり高くなかったので【ソーダ灰:2g】を追加。30分煮沸。排水ネットのフンを取り出して染液は漉さずに染色。今回も【米酢:約20cc】で中和しましたが、不要なのかもしれません。
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家蚕(かさん)のフンでの蚕沙染め③
3回目も《銅後媒染》《鉄後媒染》《ミヨウバン後媒染》で媒染。媒染剤は市販品で行なったが、糸の精練不足による違いは出なかった
- 《鉄後媒染》:②よりほんの少し明るめ。媒染剤の市販、自家製の違い程度
- 《銅後媒染》:②とほぼ同じ。ほんのわずかに緑色の濃度が濃い程度
- 《ミヨウバン後媒染》:②とほぼ同じ
カイコのフンで蚕沙染め④
「濃く染めたい」と考えと考える中で、桐生の「千美工房」さんの『染液に浸して冷えるまで2~3時間または一晩置く。温度の下りはじめの30分くらいが良く染まるので上下を返して染むらを防ぐ』というアドバイスの部分を完全に見落としていました。そこで、①と同じような色味でしか染まらなかった②の絹糸を使ってもう一度染めてみます。
- 染液の抽出方法は今までとほぼ同じ。
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材料・薬品
- 蚕のフン:富岡シルク推進機構から(100g:乾燥済み)
- 草木灰汁:1ℓ(ph9)
- ソーダ灰:3g(市販品)
- 米酢:約20cc:家にある物を使用
染材(精錬した絹糸)
- ②で一度染めた糸:10g×3本
4回目は全て同じ流れで抽出液作成。【ソーダ灰:3g】を追加。【蚕のフン:100g】を入れ30分煮沸。ネットのフンは取り出さず染液とします。②で一度染めた糸をもう一度染色。一度染液を沸騰させてそのまま自然に温度が下がるのを待つ。途中で中和のために【米酢】を入れる。
温度が下がったら取り出して水洗い。
その後の各媒染《銅後媒染》《鉄後媒染》《ミヨウバン後媒染》の方法は同じ
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家蚕(かさん)のフンでの蚕沙染め④
4回目も《銅後媒染》《鉄後媒染》《ミヨウバン後媒染》で媒染。
2度染めしたことで少々絹糸がきしんでしまった気がするが期待していた色合いで染まった。- 《ミヨウバン後媒染》:緑味をわずかに持ったベージュ
- 《鉄後媒染》:緑褐色という薄い深緑。ウグイス色など
- 《銅後媒染》:青丹色や草色などかなり緑の色味と感じる
Color Chartカラーチャート
家蚕のフンで『蚕沙染め』①
市販媒染液
- 《チタン先媒染》
- 《スズ先媒染》
- 《ミョウバン先媒染》
- 《鉄後媒染》
- 《銅後媒染》
家蚕のフンで『蚕沙染め』②
自作の《鉄媒染剤》と《銅媒染剤3》で媒染しました。《ミヨウバン後媒染》《銅後媒染》は①とほぼ同じ色、《鉄後媒染》は緑系への発色があった
- 《ミョウバン後媒染》
- 《鉄後媒染》
- 《銅後媒染》
家蚕のフンで『蚕沙染め』③
「濃く染めたい」と考え『糸の精練不足で発色が弱い』のではと思い、同じ緒糸(キビソ糸)でも種類の違うグループのものを染めましたが、定着濃度に変化がありませんでした。濃く染めるには『フンの量を増やす』『浸染時間を長くする』『媒染剤の濃度を濃くする』など他の要因のようです
- 《ミョウバン後媒染》
- 《鉄後媒染》
- 《銅後媒染》
家蚕のフンで『蚕沙染め』④
「濃く染めたい」と考えと考える中で、桐生の「千美工房」さんからのアドバイスを忘れていたことに気づきました。染液が冷めるまで放置してみたら期待の色味に仕上がった。
- 《ミョウバン後媒染》
- 《鉄後媒染》
- 《銅後媒染》
※このカラーチャートは私chackeeが染材の仕上がりを目視で数値化し、サイト表示したもので、あくまでイメージです。